順位表には出てこないものが、タイミングデータには残っています。 11,256 本のコントロールライン通過記録から、この8時間がどんな構造をしていたのかを解剖しました。 耐久レースを見慣れた方ほど「そこか」と思える切り口を6つ選んでいます。
全車が3分以上どこも1周も完了しなかった区間を「中断」として機械的に検出すると、 この日は2回ありました — 12:44:58→12:57:50(13分)/14:30:24→15:21:33(51分)。
公式には8時間のレースですが、マシンが実際に動いていたのは 418分(86.7%)。 残りはコース上の車両回収や安全確保のために、全車がその場で止まっていた時間です。 耐久レースの「8時間」は、走る時間と待たされる時間の合計なのです。
同じ「赤旗中断からの再開」でも、止まっていた長さで再開後のペースはまったく違いました。 再開後10周ぶんの全車中央値を重ねると、その差が一目で分かります。
13分の中断のあとは、再開1周目からいきなり 79.0秒 — 平常時(78.8秒)とほぼ変わりません。タイヤもブレーキも冷め切っていなかった。
ところが51分の中断のあとは、1周目 90.2秒。 平常より10秒以上も遅い。しかも10周走ってなお 82.3秒までしか戻りません。 小径タイヤは熱容量が小さく、一度冷えると発熱に時間がかかります。 ブレーキも、そして1時間近く待たされたライダーの集中力も同じこと。
ピットアウトから次のピットインまでを1本の「スティント」として切り出し、 460本すべてを重ね合わせました。縦軸は、そのスティント自身の中央値からのズレです。
出だしの1周目は +1.11秒。タイヤが冷えていて、満タンの燃料で車重も重い。 そこから毎周じわじわ速くなり、18周目あたりで -0.35秒 と底を打ちます。 燃料が減って軽くなるぶんと、タイヤが完全に仕事を始めるタイミングが重なる場所です。 そして終盤、タイヤの摩耗でわずかに垂れ始める。
この曲線が意味するのは、スティントの最初の3〜4周は「捨て周」ではないということ。 合計で1秒以上を失っているので、ピットの回数を1回増やすということは、 停止時間に加えてこの立ち上がりのロスもまた背負うということです。 EXP クラスの標準的なスティントは 23周、EJ クラスは 19周でした。
| 周 | 車番 | チーム | 時間帯 |
|---|---|---|---|
| 33周 | #33 | アップライズEXP | 14:19〜15:54 |
| 31周 | #25 | TeamÉtoile 25号車EXP | 16:22〜17:00 |
| 30周 | #25 | TeamÉtoile 25号車EXP | 09:01〜09:37 |
| 30周 | #25 | TeamÉtoile 25号車EXP | 15:42〜16:18 |
| 30周 | #7 | WINS&CLUBG&ASTEXP | 09:01〜09:36 |
| 29周 | #72 | H’S+72Project-AEXP | 09:01〜09:35 |
耐久レースでよく言われることを、データで確かめます。各車のベストラップと 全周回の中央値の差 — つまり「本気の1周」からどれだけ落ちずに8時間を刻めたか。 小さいほど、誰が乗っても、いつ走っても同じタイムが出ていたことになります。
チーム Étoile #25 はこの指標で全38台中 1位(+1.39秒)。ベストラップは EXP 8位ながら、8時間を通じて最も“垂れなかった”グループに入ります。
逆に、ベストラップの順位と結果の順位を並べると乖離が見えます。 速さを持ちながら順位を落とした車、速さでは劣っても順位を上げた車。
| 車番 | チーム | ベスト | 結果 | 差 |
|---|---|---|---|---|
| #10 | WINS富ちゃんバーン | 6位 | 12位 | -6 |
| #68 | TSU大島製作所、俺塾ジャパン | 4位 | 7位 | -3 |
| #44 | ガレージアップライズ③ | 11位 | 14位 | -3 |
| #41 | ニトロリョウタレーシング#41 | 1位 | 3位 | -2 |
| #7 | WINS&CLUBG&AST | 3位 | 5位 | -2 |
| #71 | Vamos Racing | 7位 | 8位 | -1 |
| #83 | Team モトストリーム | 16位 | 13位 | +3 |
| #72 | H’S+72Project-A | 5位 | 1位 | +4 |
| #25 | TeamÉtoile 25号車 | 8位 | 4位 | +4 |
38台が1周1分15秒前後のコースにひしめくと、緑旗中は平均 2.23秒に1台が コントロールラインを通過する計算になります。全ラップの 84% は、 直前2秒以内に他車がラインを通過した状態から始まっていました。 つまりほぼ常に、誰かの視界の中にいる。
トップの #72(H’S+72Project-A、331周)が他の全車に付けた周回差を合計すると 1,313周ぶん。最後尾とは 97周差。 速い車は8時間のあいだ、延べこれだけの回数「抜く」判断を強いられます。 そのすべてがリスクで、そのすべてが数十分の一秒の損失です。
各ピットの正味ロスを測ります。「ピットに入る直前の通過 → 出てきて1周を終えるまで」の実時間から、 普通に2周走った場合の時間を引いた値。つまりピットに寄ったせいで余計にかかった時間です (赤旗中断ぶんは除外)。
この値は種類でくっきり分かれます。ライダー交代だけなら中央値 59秒、 2分の停止義務を伴う給油なら 180秒。給油1回は交代1回のおよそ3倍以上重い。
そして EXP クラスの決着です。 優勝した #72(H’S+72Project-A)と2位 #1(PEACE RACING SP)は同じ周回数(331周)で、 その差はわずか 60.5秒でした。ところがピットでの正味ロスを比べると——
| 車番 | ピット | うち給油 | 正味ロス計 |
|---|---|---|---|
| #72 優勝 | 9回 | 2回 | 10.7分 |
| #1 2位 | 10回 | 3回 | 13.0分 |
優勝車はピットで 136秒ぶん有利だった。 決着の 60.5秒より、はるかに大きい差です。分かれ目は給油の回数—— #1 は残り時間わずかとなった 16:46:05 にもう一度給油に入り、そこで 158秒を失いました。 #72 はその給油を必要としなかった。